Contents
- はじめに
- 1. 国内MBA合格の鍵 研究計画書と先行研究の重要性
- 1.1 なぜ国内MBA入試で研究計画書が重視されるのか
- 1.2 研究計画書の質を高める先行研究の役割とは
- 1.3 先行研究の理解度が合否を左右する理由
- 2. 国内MBA研究計画書の基本構成と先行研究の位置づけ
- 2.1 研究計画書に含めるべき必須要素
- 2.2 各要素における先行研究の具体的な活用方法
- 2.2.1 研究背景と問題意識の明確化における先行研究
- 2.2.2 リサーチクエスチョン設定と先行研究レビュー
- 2.2.3 研究方法の妥当性を示すための先行研究活用
- 3. 国内MBA研究計画書のための先行研究 効率的な探し方
- 3.1 研究テーマに合致するキーワード選定のコツ
- 3.2 国内MBA受験生におすすめの論文データベース
- 3.2.1 CiNii Articlesの活用法
- 3.2.2 J-STAGEの効果的な使い方
- 3.2.3 Google Scholarでの検索テクニック
- 3.2.4 大学リポジトリや図書館データベースの利用
- 3.3 参考文献リストから関連論文を見つける方法
- 3.4 先行研究を探す際の注意点と落とし穴
- 4. 研究計画書作成に直結する学術論文の読み方 実践ガイド
- 4.1 目的を持って読む 国内MBA研究計画書のための論文読解術
- 4.2 時間がない受験生向け 効率的な論文の読み方ステップ
- 4.2.1 最初に確認すべき アブストラクトと結論
- 4.2.2 次に読むべき 序論で研究の全体像を掴む
- 4.2.3 必要に応じて精読する 本文のポイント
- 4.3 読んだ論文を研究計画書に活かす整理術
- 4.3.1 論文の要点をまとめるフレームワーク
- 4.3.2 批判的に読む クリティカルリーディングのすすめ
- 4.3.3 参考文献リスト作成を見据えた情報管理
- 5. 研究計画書における先行研究レビューの書き方
- 5.1 先行研究の何をどのように記述するか
- 5.2 自身の研究のオリジナリティと貢献を示す方法
- 5.3 引用ルールと参考文献リスト作成の基本
- 6. 国内MBA合格者が実践した先行研究と論文の読み方
- 6.1 成功事例に学ぶ 先行研究の効果的な活用法
- 6.1.1 研究テーマ絞り込みと先行研究の連動
- 6.1.2 研究の「穴」を見つけるための読み込み
- 6.1.3 研究計画書への落とし込み方
- 6.1.4 指導教員候補との接続
- 6.2 論文の読み方で注意すべき点と対策
- 6.2.1 時間的制約との戦い
- 6.2.2 英語論文への対応
- 6.2.3 モチベーション維持の秘訣
- 6.2.4 批判的視点の欠如への対策
- 6.2.5 情報整理の失敗談と教訓
- 7. まとめ
はじめに
国内MBA合格を目指す方へ。研究計画書の質は合否の鍵ですが、その核心は『先行研究』の扱いにあります。この記事を読めば、CiNiiやJ-STAGE等を活用した効率的な論文の探し方、多忙な中でも実践できる学術論文の読み方、そして研究計画書で自身の研究の価値を示すための先行研究レビューの書き方まで、合格レベルの研究計画書作成に必要な知識が全てわかります。先行研究の理解と活用こそが合格への道筋です。
1. 国内MBA合格の鍵 研究計画書と先行研究の重要性
国内MBA(経営学修士)プログラムへの入学を目指す皆さんにとって、研究計画書の作成は避けて通れない重要なプロセスです。多くのビジネススクールでは、出願書類の中でも特に研究計画書を重視しており、その出来栄えが合否に直結すると言っても過言ではありません。単なる書類作成と捉えず、自身の学習意欲、問題意識、そして将来性を大学側に示すための重要な機会と認識することが、合格への第一歩となります。
そして、その研究計画書の質を飛躍的に高める上で不可欠な要素が「先行研究」の調査と理解です。本章では、なぜ国内MBA入試において研究計画書がこれほどまでに重視されるのか、そしてその中で先行研究がどのような役割を果たし、なぜその理解度が合否を左右するのかについて詳しく解説していきます。
1.1 なぜ国内MBA入試で研究計画書が重視されるのか
国内MBAプログラムは、実務経験豊富な社会人を対象としながらも、修士号を授与する大学院教育です。そのため、単にビジネススキルを学ぶだけでなく、経営に関する専門分野についてアカデミックな視点から深く探求し、論理的に考察する能力が求められます。研究計画書は、まさにその能力を受験生が有しているかを見極めるための重要な判断材料となります。
具体的に、大学側は研究計画書を通じて以下の点を評価しようとしています。
評価項目 | 研究計画書から読み取れること |
---|---|
論理的思考力 | 問題意識から研究目的、研究方法に至るまで、一貫した論理で構成されているか。思考のプロセスが明確か。 |
問題発見・設定能力 | 自身の経験や社会の動向から、研究に値する本質的な問い(リサーチクエスチョン)を設定できているか。 |
学習意欲・目的意識 | なぜMBAで学ぶ必要があるのか、何を学びたいのかが明確か。キャリアプランとの整合性はあるか。 |
専門分野への関心度 | 希望する研究分野に対する基礎知識や深い関心を持っているか。 |
研究遂行能力(ポテンシャル) | 入学後、主体的に研究を進め、修士論文を完成させられるだけの基本的な能力や意欲があるか。 |
大学・教員との適合性 | 受験先のMBAプログラムの特色や、指導を希望する教員の専門分野と、自身の研究テーマが合致しているか。 |
このように、研究計画書は単なる入学願書の一部ではなく、受験生自身の知的なポテンシャルや学習への真摯な姿勢を示すためのプレゼンテーション資料としての側面を持っています。特に、実務経験だけでは測ることのできないアカデミックな素養や論理構築能力を評価するために、極めて重要な役割を果たしているのです。また、入学後の学習ミスマッチを防ぎ、学生が有意義な研究活動を行えるようにするためにも、研究計画書の内容は慎重に吟味されます。さらに、多くの国内MBA入試では面接が課されますが、研究計画書はその面接における質疑応答のベースとなるため、その重要性は計り知れません。
1.2 研究計画書の質を高める先行研究の役割とは
研究計画書の質を担保し、説得力を持たせる上で欠かせないのが「先行研究」の調査と活用です。「先行研究」とは、自身が取り組もうとしている研究テーマに関連して、過去にどのような研究が行われ、どのような知見(知識や見解)が蓄積されてきたかを示す学術的な成果のことを指します。具体的には、学術雑誌に掲載された論文、学会発表、書籍などが該当します。
研究計画書作成において先行研究を踏まえることには、以下のような重要な役割があります。
- 研究の土台作り: 自身の研究が、既存の膨大な知見の上に成り立つものであることを示します。これにより、研究の文脈や背景が明確になります。
- 問題意識の明確化と深化: 先行研究を読むことで、何が既に明らかにされており、何がまだ解明されていないのか(リサーチギャップ)を把握できます。これにより、自身の問題意識をよりシャープにし、研究の焦点を絞り込むことができます。
- 研究テーマの独自性・新規性の担保: 過去の研究を十分に調査することで、「車輪の再発明」と呼ばれるような、既に解明されているテーマを再び研究してしまう事態を防ぎます。先行研究との比較検討を通じて、自身の研究がどのような点で新しいのか、どのような貢献が期待できるのかを明確に示すことができます。
- リサーチクエスチョンの精緻化: 先行研究で用いられている概念や理論、論点を参考にすることで、より具体的で検証可能なリサーチクエスチョンを設定するためのヒントを得られます。
- 研究方法の妥当性の確保: 類似の研究テーマでどのような調査方法(アンケート、インタビュー、事例分析、統計分析など)が用いられているかを知ることで、自身の研究に適した方法論を選択・設計するための根拠となります。
- 学術的な作法の習得: 先行研究のレビューや引用の仕方などを学ぶことで、アカデミックな文章作成の基礎を身につけることができます。
もし先行研究の調査が不十分なまま研究計画書を作成してしまうと、テーマ設定が曖昧になったり、問題意識の掘り下げが浅くなったり、研究のオリジナリティを主張できなかったりと、計画書全体の説得力が著しく低下してしまいます。質の高い研究計画書を作成するためには、先行研究の調査・理解は必要不可欠なプロセスなのです。
1.3 先行研究の理解度が合否を左右する理由
国内MBAの入試担当者や面接官の多くは、大学で研究・教育に携わる教員です。彼らは日常的に学術論文を読み、研究を行っているため、受験生が提出した研究計画書における先行研究の扱い方を見れば、そのテーマに対する理解度や研究への取り組み姿勢を瞬時に見抜くことができます。
先行研究に対する理解度の深さは、単に「論文を読んだかどうか」という事実だけでなく、以下のような点を通じて評価されます。
- 研究テーマへの本気度: 関連する先行研究をどれだけ深く、幅広く調査しているかは、その研究テーマに対する受験生の熱意や本気度を示す指標となります。
- 知的好奇心と探求心: 既存の研究成果を批判的に検討し、そこから新たな問いを見出そうとする姿勢は、研究者としてのポテンシャルを感じさせます。
- 情報収集・分析能力: 膨大な情報の中から必要な文献を見つけ出し、その要点を的確に把握し、整理・分析する能力は、MBAでの学習や研究活動に不可欠です。
- 論理的思考力: 複数の先行研究を整理・比較し、それらを踏まえて自身の研究の位置づけや貢献を論理的に説明できるかは、思考力の高さを判断する上で重要なポイントです。
- 研究への適性: 先行研究を正確に理解し、敬意を払いながら自身の研究を進めようとする姿勢は、アカデミックな世界で研究を行う上での基本的な適性を示します。
逆に、先行研究の調査が不十分であったり、理解が浅かったりすると、以下のようなマイナス評価につながる可能性があります。
先行研究の理解度が低い場合の問題点 | 審査員に与える印象 |
---|---|
参考文献リストが貧弱、またはテーマとの関連性が薄い | 準備不足、テーマへの理解不足、調査能力への疑問 |
先行研究の内容を誤解している、または表面的にしか触れていない | 読解力・分析力の不足、安易な考え、研究への真摯さの欠如 |
自身の研究の新規性や貢献を具体的に示せていない | 問題意識の希薄さ、研究計画の具体性の欠如 |
引用ルールが守られていない、参考文献リストの不備 | アカデミックな作法への無理解、研究遂行能力への不安 |
このように、先行研究の理解度は、研究計画書全体の説得力、ひいては受験生自身の評価に直結します。単に参考文献を並べるだけでなく、その内容を深く理解し、自身の研究計画の中で有機的に関連付け、論理的に記述することが、国内MBA合格を掴むための重要な鍵となるのです。
2. 国内MBA研究計画書の基本構成と先行研究の位置づけ
国内MBAプログラムへの合格を掴むためには、質の高い研究計画書の提出が不可欠です。そして、その研究計画書の質を大きく左右するのが「先行研究」の的確な理解と活用です。この章では、国内MBAの研究計画書が一般的にどのような要素で構成されるのか、そして各要素において先行研究がどのような役割を果たし、どのように位置づけられるのかを詳しく解説します。
先行研究は、単なる参考文献リストの作成に留まらず、研究全体の土台となり、あなたの研究の独自性と価値を明確に示すための重要な根拠となります。先行研究を効果的に活用することで、研究計画書全体の説得力を飛躍的に高めることができます。
2.1 研究計画書に含めるべき必須要素
国内MBAの研究計画書に求められる構成要素は、提出先のビジネススクールによって細部が異なる場合がありますが、一般的には以下の要素が含まれます。これらの要素を漏れなく、かつ論理的に構成することが重要です。そして、これらの多くの要素において、先行研究の知見が求められます。
構成要素 | 内容 | 先行研究との関連度 |
---|---|---|
研究テーマ | 自身が取り組みたい具体的な研究課題を明確に記述します。 | 高:テーマ設定の背景や意義を示す上で関連。 |
研究の背景・動機 | なぜそのテーマに関心を持ったのか、社会的な背景や個人的な問題意識、実務経験などを具体的に説明します。 | 高:問題意識の妥当性や重要性を客観的に示すために不可欠。 |
研究目的 | その研究を通じて何を明らかにしたいのか、達成したい目標を具体的に設定します。 | 中:目的設定の根拠として関連。 |
リサーチクエスチョン(問い) | 研究目的を達成するために、具体的に解き明かすべき問いを設定します。明確かつ検証可能な形で記述することが重要です。 | 極めて高:先行研究レビューに基づき、研究のギャップ(未解明な点)から導き出される。 |
先行研究レビュー | 関連する既存の研究(学術論文、書籍など)を調査・整理し、これまでに何が明らかになっており、何が課題として残されているのかを記述します。 | 極めて高:このセクション自体が先行研究の分析・評価。 |
研究の方法 | リサーチクエスチョンに答えるために、どのようなアプローチ(調査方法、データ収集方法、分析方法など)を用いるのかを具体的に記述します。 | 高:選択した研究方法の妥当性を示すために、同様の手法を用いた先行研究を引用。 |
期待される研究成果と貢献 | 研究を通じてどのような知見が得られると予想されるか、学術的・実務的にどのような貢献が期待できるかを記述します。 | 高:先行研究との比較において、自身の研究の独自性や貢献度を示す。 |
研究計画(スケジュール) | 修士課程の期間内で、研究をどのように進めていくのか、具体的なスケジュールを示します。 | 低:直接的な関連は薄いが、実現可能性の判断材料となる。 |
参考文献リスト | 研究計画書を作成するにあたって参照した文献(先行研究)を、指定された形式でリスト化します。 | 極めて高:参照した先行研究を正確に記述。 |
上記以外にも、自己紹介や志望理由、キャリアプランなどを含める場合もあります。必ず志望するビジネススクールの募集要項を確認してください。
2.2 各要素における先行研究の具体的な活用方法
研究計画書の各構成要素において、先行研究はそれぞれ異なる、しかし重要な役割を担います。単に既存の研究をリストアップするのではなく、自身の研究の問題意識、問い、方法論、そして独自性を明確にするための「対話の相手」として先行研究を活用することが、質の高い研究計画書を作成する鍵となります。
2.2.1 研究背景と問題意識の明確化における先行研究
研究計画書の冒頭で記述する「研究背景」や「問題意識」は、読み手である教員に「なぜこの研究が必要なのか」「なぜあなたがこの研究に取り組むのか」を理解してもらうための重要な部分です。ここで先行研究を活用することで、あなたの問題意識が個人的な思いつきではなく、客観的な事実や学術的な議論に基づいていることを示すことができます。
例えば、特定の経営課題に関心がある場合、その課題についてどのような研究が既に行われているのか、どのような論点が指摘されているのかを先行研究で確認します。これにより、
- 課題の重要性や緊急性を裏付ける:多くの研究者が注目している、あるいは社会的に影響が大きい課題であることを示す。
- 問題の所在を特定する:漠然とした問題意識を、先行研究で議論されている具体的な論点に結びつける。
- 自身の視点の独自性を際立たせる:既存の研究では見過ごされてきた側面や、新たな視点からのアプローチが必要であることを示唆する。
といった効果が期待できます。「〇〇(著者名, 出版年)によれば、△△という問題が指摘されている。しかし、近年の□□という環境変化を踏まえると、従来の議論だけでは不十分ではないか」といった形で、先行研究を踏まえつつ自身の問題意識を提示することで、説得力が増します。
2.2.2 リサーチクエスチョン設定と先行研究レビュー
研究計画書の中核とも言えるのが「リサーチクエスチョン(研究の問い)」の設定です。そして、このリサーチクエスチョンは、先行研究の徹底的なレビュー(調査・分析)を通じて導き出されるものです。先行研究レビューとは、関連分野の既存研究を読み込み、
- これまでに何が明らかになっているか(既知の事実、確立された理論)
- どのような点がまだ解明されていないか(研究のギャップ、未解決の問い)
- どのようなアプローチや視点が不足しているか
を体系的に整理・分析する作業です。このプロセスを通じて発見された「研究のギャップ」こそが、あなたの研究が取り組むべき独自のリサーチクエスチョンの源泉となります。
優れたリサーチクエスチョンは、先行研究の文脈の中に明確に位置づけられ、その問いに答えることが学術的・実務的にどのような意義を持つのかが示されている必要があります。「これまでの研究ではAとBの関係は明らかにされているが(引用)、Cという条件下での関係性は検証されていない。そこで本研究では、『Cの条件下において、AとBの関係性はどのように変化するのか?』という問いを探求する」といった形で、先行研究レビューの結果とリサーチクエスチョンを接続させることが重要です。
単に既存研究を要約するだけでなく、批判的な視点(クリティカルリーディング)で読み込み、論理の飛躍や未検証の前提、異なる研究間の矛盾点などを指摘することも、独自のリサーチクエスチョンを設定する上で有効なアプローチです。
2.2.3 研究方法の妥当性を示すための先行研究活用
設定したリサーチクエスチョンに答えるためには、適切な「研究方法」を選択し、その妥当性を研究計画書の中で説明する必要があります。なぜその調査方法(例:アンケート調査、インタビュー調査、事例研究)を選択するのか、なぜその分析方法(例:統計分析、質的データ分析)を用いるのか、その根拠を示す際に先行研究が役立ちます。
具体的には、以下のような活用方法が考えられます。
- 同様の研究テーマやリサーチクエスチョンに取り組んだ先行研究で採用されている方法論を参照する:「〇〇(著者名, 出版年)の研究では、本研究と同様の課題に対して△△調査が用いられ、有効な知見が得られている。そのため、本研究でも△△調査を採用する」といった形で、選択した方法の妥当性を補強します。
- 特定の研究手法のメリット・デメリットに関する先行研究を引用する:採用する手法の長所だけでなく、限界点も認識していることを示し、その上でなぜその手法が最適なのかを論じます。
- データ収集や分析の具体的な手順について、先行研究を参考にする:質問項目の設計、インタビューガイドの作成、コーディングの手順など、具体的な実施方法について、信頼性の高い先行研究で用いられた手法を参考にすることで、研究計画の実現可能性を高めます。
特に、国内MBAの研究では、実務的な課題解決に直結する研究が期待される一方で、学術的な厳密性も求められます。先行研究で確立された、あるいは広く受け入れられている研究方法を用いることで、研究の信頼性と客観性を担保することができます。
このように、研究計画書の各要素において先行研究を適切に位置づけ、活用していくことが、国内MBA合格に向けた質の高い研究計画書作成の鍵となるのです。
3. 国内MBA研究計画書のための先行研究 効率的な探し方
国内MBAの入試で求められる質の高い研究計画書を作成するためには、自身の研究テーマに関連する先行研究を網羅的かつ効率的に収集・理解することが不可欠です。しかし、膨大な学術情報の中から必要な論文を見つけ出す作業は、多忙な受験生にとって大きな負担となり得ます。この章では、研究計画書作成に直結する先行研究の効率的な探し方を、具体的なツールやテクニックを交えながら詳しく解説します。
3.1 研究テーマに合致するキーワード選定のコツ
先行研究を探す第一歩は、適切な検索キーワードを選定することです。キーワードが曖昧だったり、的外れだったりすると、関連性の低い論文ばかりがヒットしたり、重要な論文を見逃したりする可能性があります。効果的なキーワード選定のためのコツをいくつかご紹介します。
- 研究テーマの核となる概念を洗い出す: まず、ご自身の研究テーマの中心となる概念、理論、対象とする業界や現象などを明確にし、それらをキーワード候補としてリストアップします。例えば、「中小企業の事業承継における後継者育成」がテーマなら、「中小企業」「事業承継」「後継者育成」「経営者」「ファミリービジネス」などが考えられます。
- 類義語・関連語・上位/下位概念を考慮する: 同じ意味を持つ異なる言葉(例:「従業員満足度」「ES」、「企業価値」「株主価値」)や、関連性の高い言葉(例:「リーダーシップ」と「組織コミットメント」)、より広い概念(例:「マーケティング戦略」)や狭い概念(例:「デジタルマーケティング」)もキーワードに含めることで、検索の網羅性が高まります。
- 英語キーワードも併用する: 国内MBAであっても、経営学の主要な研究は海外で発表されていることが多く、日本語のキーワードだけでは十分な情報が得られない場合があります。特に国際的に通用する理論や概念については、対応する英語キーワード(例:「事業承継」なら “Business Succession”、「組織コミットメント」なら “Organizational Commitment”)も併用しましょう。
- キーワードを組み合わせる(AND検索): 複数のキーワードを「AND」で組み合わせることで、検索結果を絞り込むことができます。例えば、「中小企業 AND 事業承継 AND 後継者育成」のように検索すると、よりテーマに合致した論文を見つけやすくなります。多くのデータベースでは、スペースで区切ることでAND検索として扱われます。
- OR検索やNOT検索も活用する: 類義語をまとめて検索したい場合は「OR」(例:「従業員満足度 OR ES」)、特定のキーワードを除外したい場合は「NOT」(例:「マーケティング NOT デジタル」)を使うと、より効率的な検索が可能です。
- 初期検索で見つかった論文を参考にする: 最初に見つけた関連性の高い論文のアブストラクトやキーワード欄を確認し、そこで使われている専門用語やキーワードを参考に、さらに検索キーワードを洗練させていくことも有効な手法です。
これらのコツを参考に、試行錯誤しながら最適なキーワードの組み合わせを見つけていくことが重要です。最初から完璧なキーワードを見つけようとせず、検索を進めながら柔軟に見直していく姿勢を持ちましょう。
3.2 国内MBA受験生におすすめの論文データベース
キーワードが決まったら、次は実際に論文を検索するためのデータベースを活用します。国内MBA受験生にとってアクセスしやすく、信頼性の高い主要なデータベースとその活用法をご紹介します。
3.2.1 CiNii Articlesの活用法
CiNii Articles(サイニィ・アーティクルズ)は、国立情報学研究所(NII)が提供する、日本の学術論文を中心としたデータベースです。国内の学会誌論文、大学紀要、研究報告書などを幅広く検索できます。
- 基本的な使い方: トップページの検索窓にキーワードを入力して検索します。詳細検索では、タイトル、著者名、収録刊行物名、発行年などで絞り込むことができます。
- 本文へのアクセス: 検索結果一覧には、本文へのリンクが表示される場合があります。「機関リポジトリ」や「J-STAGE」へのリンクがあれば、多くの場合無料で本文を閲覧できます。有料の電子ジャーナルへのリンクや、本文へのリンクがない場合は、後述する大学図書館などを通じてアクセスを試みることになります。
- 国内研究の動向把握に最適: 日本国内の研究動向や、日本語で書かれた論文を探す際には、まずCiNii Articlesを活用するのがおすすめです。
3.2.2 J-STAGEの効果的な使い方
J-STAGE(ジェイ・ステージ)は、科学技術振興機構(JST)が運営する電子ジャーナルプラットフォームです。科学技術分野だけでなく、人文・社会科学分野の学術雑誌も多数公開されており、オープンアクセス(無料公開)の論文が多いのが特徴です。
- キーワード検索とジャーナル検索: トップページからのキーワード検索に加え、特定の学会誌(ジャーナル)を指定して、そのバックナンバーを検索することも可能です。関心のある分野の主要な学会誌がわかっている場合に便利です。
- 早期公開論文のチェック: J-STAGEでは、冊子体発行前にオンラインで早期公開される論文もあります。最新の研究動向を追う上で役立ちます。
- CiNiiとの連携: CiNii Articlesの検索結果からJ-STAGE掲載論文へのリンクが張られていることも多く、連携して利用すると効率的です。
3.2.3 Google Scholarでの検索テクニック
Google Scholar(グーグル・スカラー)は、Googleが提供する学術文献専門の検索エンジンです。論文、学術雑誌、書籍、学位論文、研究報告書など、幅広い情報源を網羅的に検索できます。
- 網羅性と利便性: 分野を問わず、世界中の学術文献を検索できる点が最大のメリットです。インターフェースも通常のGoogle検索と似ており、直感的に利用できます。
- 引用情報の活用: 検索結果には「被引用数」が表示され、その論文が他の研究者にどれだけ引用されているかの目安になります。また、「引用元」や「関連記事」のリンクを辿ることで、関連研究を効率的に見つけ出すことができます。これは先行研究の全体像を把握する上で非常に有効な機能です。
- 検索演算子の活用: 通常のGoogle検索と同様に、””(完全一致)、-(除外)、ORなどの検索演算子が利用できます。詳細検索オプションも活用しましょう。
- 注意点: Google Scholarは網羅性が高い反面、査読を経ていない論文や信頼性の低い情報源もヒットする可能性があります。ヒットした文献が査読付きの学術論文であるか、信頼できる発行元からのものかを確認することが重要です。本文へのアクセスは、PDFへの直接リンクがある場合や、大学図書館の契約データベースへのリンク(学内LANなどからのアクセスが必要な場合あり)が表示されることがあります。
3.2.4 大学リポジトリや図書館データベースの利用
所属大学や志望する国内MBAの大学院が提供するリソースも積極的に活用しましょう。
- 大学リポジトリ: 各大学が運営する機関リポジトリでは、その大学の研究者による論文、学位論文(修士論文、博士論文)、紀要論文などが公開されています。特に志望校のリポジトリを調べることで、指導を受けたい教員の研究テーマや、その研究室の過去の修士論文などを確認でき、研究計画書作成の大きなヒントになります。
- 図書館の契約データベース: 大学図書館は、学術論文データベース(例: ProQuest Central, EBSCOhost Business Source Premier, ABI/INFORM など)や電子ジャーナルパッケージを契約しています。これらのデータベースは、特定の分野(特に経営学)に特化した質の高い論文を効率的に検索できるメリットがあります。多くの場合、学内ネットワークからのアクセスが必要ですが、VPN接続などで学外から利用できる場合もあります。卒業生向けの利用サービスを提供している大学もあります。
- 図書館司書(レファレンス係)への相談: 論文の探し方やデータベースの使い方に迷ったら、大学図書館の司書(レファレンス係)に相談してみましょう。専門的な知識に基づいて、適切なデータベースや検索戦略をアドバイスしてくれます。
これらのデータベースやリソースは、それぞれに特徴や得意分野があります。一つのデータベースだけに頼るのではなく、複数の情報源を組み合わせて利用することで、より網羅的かつ効率的に先行研究を探すことができます。以下の表に各データベースの特徴をまとめます。
データベース名 | 主な特徴 | 得意分野 | 本文アクセス | 注意点 |
---|---|---|---|---|
CiNii Articles | 国内学術論文の網羅性が高い | 日本の研究全般、人文・社会科学 | 機関リポジトリやJ-STAGEへのリンク多、一部有料 | 海外論文の網羅性は低い |
J-STAGE | オープンアクセス論文が多い、早期公開あり | 科学技術、人文・社会科学 | 無料アクセス可能な論文が多い | 収録ジャーナルに偏りがある可能性 |
Google Scholar | 世界中の幅広い学術文献を検索可能、引用情報が充実 | 全分野 | PDF直リンク、大学経由リンクなど様々 | 査読有無の確認が必要、ノイズが多い場合あり |
大学リポジトリ | 学位論文、紀要など大学固有の資料 | 大学・研究室による | 多くが無料公開 | 対象が限定的 |
大学図書館契約DB | 特定分野(経営学など)に強い、高品質な論文 | 経営学、経済学など(契約内容による) | 契約範囲内でアクセス可能(学内限定等あり) | アクセス権が必要 |
3.3 参考文献リストから関連論文を見つける方法
データベース検索と並行して、あるいは検索で見つけた質の高い論文の「参考文献リスト」を活用することも、効率的な先行研究の探し方として非常に有効です。これは「芋づる式」や「雪だるま式」と呼ばれる方法です。
- 重要論文の参考文献をチェック: 自分の研究テーマに非常に関連性が高く、信頼できると思われる論文(特にレビュー論文や影響力の大きい論文)を見つけたら、その巻末にある参考文献リストを丁寧に確認します。リストアップされている論文は、その著者が必要と判断した重要な先行研究である可能性が高いです。
- タイトルや著者名で再検索: 参考文献リストに挙げられている論文の中で、特に興味を引くタイトルや、繰り返し引用されている著者名があれば、それをキーワードとして再度データベース(CiNii Articles, Google Scholarなど)で検索します。これにより、元の論文だけでは見つけられなかった関連研究を発見できます。
- 被引用文献を追跡する: Google Scholarなどの機能を使って、ある論文が「誰に」「どのように」引用されているかを追跡することも有効です。引用している論文は、元の論文の研究を発展させたり、異なる視点から論じたりしている可能性があり、研究の広がりや最新動向を把握するのに役立ちます。
参考文献リストを活用する方法は、研究分野の知識体系や主要な研究の流れを効率的に理解する上で役立ちます。質の高い論文を起点に、関連研究を網羅的に辿っていくことができます。
3.4 先行研究を探す際の注意点と落とし穴
効率的に先行研究を探すことは重要ですが、いくつか注意すべき点や陥りやすい落とし穴があります。これらを意識することで、より質の高い研究計画書の作成につながります。
- 情報の信頼性を常に確認する: 検索で見つかった文献が、必ずしも学術的に信頼できるものとは限りません。特にインターネット検索では、ブログ記事や企業のウェブサイト、未査読のワーキングペーパーなどもヒットします。研究計画書の根拠として用いる先行研究は、原則として査読(専門家による審査)を経た学術雑誌論文や、信頼できる学会で発表された論文、書籍などを中心に選びましょう。Google Scholarなどで見つけた場合も、必ず出典(掲載雑誌名、発行元など)を確認し、信頼性を判断する習慣をつけてください。
- 網羅性とバイアスに注意する: 特定のデータベースや検索キーワードだけに頼っていると、重要な先行研究を見逃してしまう可能性があります。複数のデータベースを組み合わせ、キーワードも適宜見直しながら、多角的に検索することを心がけましょう。また、自分の考えに都合の良い論文ばかりを集めてしまう「確証バイアス」にも注意が必要です。批判的な視点を持つ論文や、異なるアプローチの研究にも目を向けることが、研究の客観性を高める上で重要です。
- 最新性と古典的重要性とのバランス: 研究分野の最新動向を把握するために、新しい論文をチェックすることは大切です。しかし、その分野の基礎を築いた古典的な重要論文や、長く引用され続けている基本的な文献も必ず押さえておく必要があります。新旧のバランスを意識して先行研究を収集しましょう。レビュー論文(特定のテーマに関する過去の研究をまとめた論文)を読むと、分野全体の流れや重要文献を把握しやすくなります。
- 検索疲れ・目的を見失わない: 先行研究探しは、始めるとキリがなく、膨大な時間と労力がかかります。完璧を目指すあまり、検索作業そのものが目的化してしまい、本来の研究計画書作成が進まないという事態に陥らないように注意が必要です。時間を区切って検索する、ある程度の段階で収集を一旦終え、論文を読むフェーズに移るなど、効率的な時間管理を意識しましょう。研究計画書で示すべき先行研究の範囲や深さを見極めることも重要です。
- アクセスできない論文への対応: 読みたい論文が見つかっても、所属機関が契約していなかったり、有料だったりして本文にアクセスできない場合があります。そのような場合は、大学図書館の文献複写・相互貸借サービス(他の図書館からコピーを取り寄せたり、現物を借りたりするサービス)を利用できないか確認しましょう。また、著者に直接連絡して論文のコピー(別刷り)を送ってもらえないか依頼する方法もあります(特にリポジトリなどで公開されていない場合)。
- キーワードの罠を理解する: あまりに一般的なキーワード(例:「経営戦略」)では検索結果が膨大になりすぎ、逆に専門的すぎるキーワードではほとんどヒットしないことがあります。キーワードの抽象度を調整したり、複数のキーワードを組み合わせたりして、適切な検索範囲を探る試行錯誤が必要です。
これらの注意点を踏まえ、計画的かつ批判的な視点を持って先行研究探しに取り組むことが、国内MBA合格に向けた研究計画書作成の成功につながります。
4. 研究計画書作成に直結する学術論文の読み方 実践ガイド
国内MBAの研究計画書作成において、先行研究となる学術論文を読み解くスキルは合否を左右するほど重要です。しかし、闇雲に論文を読んでも時間ばかりが過ぎてしまい、研究計画書の質向上には繋がりません。ここでは、研究計画書作成という明確な目的意識を持って、効率的かつ効果的に学術論文を読み進めるための実践的なガイドを提供します。
4.1 目的を持って読む 国内MBA研究計画書のための論文読解術
学術論文を読む際には、「なぜこの論文を読むのか」「この論文から何を得たいのか」という目的意識を持つことが極めて重要です。国内MBAの研究計画書作成においては、主に以下のような目的が考えられます。
- 研究背景・問題意識の補強: 自身の研究テーマが、どのような社会的・学術的背景から重要性を持つのか、その根拠となる情報を得る。
- リサーチクエスチョンの独自性確認: 既に同様の研究が行われていないか、どのような点が未解明なのかを確認し、自身の研究の新規性・独創性を明確にする。
- 研究方法の妥当性検証・選択: 先行研究で用いられている研究デザイン、データ収集方法、分析手法などを参考に、自身の研究に適した方法論を見つけ、その妥当性を示す根拠とする。
- 理論的枠組みの構築: 自身の研究を支える理論や概念モデルについて理解を深め、研究計画書における理論的背景を充実させる。
- 先行研究レビューの材料収集: 研究計画書内で記述する先行研究レビューのために、関連する研究の目的、方法、結果、限界などを整理・要約する。
目的が明確であれば、読むべき論文の優先順位をつけたり、論文のどの部分を重点的に読むべきか判断したりすることが容易になります。漠然と情報を集めるのではなく、常に自身の研究計画書と照らし合わせながら、必要な情報を能動的に探しにいく姿勢が、効率的な論文読解の第一歩です。
4.2 時間がない受験生向け 効率的な論文の読み方ステップ
国内MBA受験生の多くは、仕事や他の学習と並行して研究計画書の準備を進めるため、時間は非常に限られています。そこで、短時間で論文の要点を掴み、研究計画書作成に必要な情報を効率的に収集するためのステップを紹介します。
4.2.1 最初に確認すべき アブストラクトと結論
学術論文を読む際、最初に目を通すべきなのはアブストラクト(抄録)と結論(または考察のまとめ部分)です。アブストラクトには、通常、研究の目的、方法、主要な結果、結論が簡潔にまとめられています。これを読むことで、論文全体の概要を数分で把握できます。
次に結論部分を読むことで、研究から得られた最も重要な知見や、研究の限界、今後の課題などを確認できます。アブストラクトと結論を読むだけで、その論文が自身の研究テーマと関連性が深いか、研究計画書作成に役立つ情報を含んでいるかを大まかに判断できます。関連性が薄いと判断した場合は、その論文は深追いせず、次の論文に移るという判断も重要です。
4.2.2 次に読むべき 序論で研究の全体像を掴む
アブストラクトと結論で論文の重要性を確認したら、次に序論(はじめに、Introduction)を読み、研究の背景や文脈を理解します。序論には通常、以下の要素が含まれています。
- 研究が行われた背景(社会的・学術的重要性)
- 解決しようとしている問題(問題提起)
- 関連する先行研究の概観と、それらに対する本研究の位置づけ
- 本研究の目的とリサーチクエスチョン
- 論文全体の構成
序論を読むことで、著者がどのような問題意識を持ち、何を明らかにしようとしているのか、そしてその研究が学術的にどのような意味を持つのかを深く理解することができます。これは、自身の研究計画書における問題意識の明確化や、研究の独自性を主張する上で非常に役立ちます。
4.2.3 必要に応じて精読する 本文のポイント
序論まで読んで、さらに詳細な情報が必要だと判断した場合、本文の関連箇所を精読します。ただし、すべてのセクションを同じ熱量で読む必要はありません。自身の目的に応じて、以下のポイントに注目して読み進めましょう。
- 理論的背景・先行研究レビュー: どのような理論や概念が用いられているか、主要な先行研究として何が挙げられているかを確認します。自身の研究計画書の理論的根拠や先行研究レビューを記述する際の参考にします。
- 研究方法: どのような対象に対して、どのような手続きでデータを収集し、どのように分析したのかを詳細に確認します。研究デザイン(実験、調査、事例研究など)、データの種類(量的、質的)、具体的な分析手法(統計分析、内容分析など)とその妥当性を吟味します。自身の研究方法を設計・正当化する上で不可欠な情報です。
- 結果: 分析によって何が明らかになったのか、具体的なデータや図表とともに示されている箇所です。客観的な事実として何が示されているかを正確に把握します。
- 考察: 結果が何を意味するのか、先行研究や理論と関連付けて解釈されている箇所です。研究の意義、限界、今後の課題などが述べられています。著者の解釈や主張を理解し、自身の研究への示唆を得ることができます。
特に研究方法のセクションは、再現性や妥当性を担保するために詳細に記述されていることが多く、読み解くのに時間がかかる場合があります。しかし、自身の研究計画の実現可能性や説得力を高めるためには、しっかりと理解しておくことが重要です。
4.3 読んだ論文を研究計画書に活かす整理術
論文を読んだだけで満足せず、その内容を整理し、いつでも研究計画書に反映できるようにしておくことが重要です。ここでは、読んだ論文の情報を効率的に管理し、活用するための整理術を紹介します。
4.3.1 論文の要点をまとめるフレームワーク
読んだ論文の情報を一貫したフォーマットで記録しておくことで、後で比較検討したり、研究計画書に引用したりする際に非常に便利です。以下のような項目を含むフレームワーク(テンプレート)を作成し、論文ごとに記録していくことをお勧めします。
項目 | 記録内容 |
---|---|
書誌情報 | 著者名、発表年、論文タイトル、掲載誌名、巻号、ページ |
研究目的 | この研究は何を明らかにしようとしているか |
リサーチクエスチョン | 具体的な問いは何か |
研究の背景・文脈 | なぜこの研究が重要なのか |
理論的枠組み | どのような理論や概念に基づいているか |
研究方法 | 対象、データ収集方法、分析手法など |
主要な結果 | 分析によって何がわかったか(客観的な事実) |
結論・考察 | 結果から導かれる著者の主張や解釈、研究の意義 |
研究の限界・今後の課題 | 著者が認識している限界点や、将来の研究への提言 |
自身の研究への示唆 | 自分の研究計画書にどのように活かせるか(引用箇所候補、着想、反論など) |
引用したい箇所・メモ | 具体的なページ番号と内容のメモ |
このフレームワークは、Excelやスプレッドシート、あるいはノートアプリなどで管理すると良いでしょう。自分なりに使いやすいようにカスタマイズし、継続的に記録していくことが重要です。
4.3.2 批判的に読む クリティカルリーディングのすすめ
先行研究を読む際には、その内容を無批判に受け入れるのではなく、常に批判的な視点(クリティカルリーディング)を持つことが重要です。優れた学術論文であっても、必ず何らかの限界や課題、議論の余地が存在します。以下の点を自問しながら読んでみましょう。
- 著者の主張や論理展開に飛躍や矛盾はないか?
- 用いられている概念の定義は明確か?
- 研究デザインや調査対象の選定は適切か? バイアスの可能性はないか?
- データ収集方法や分析手法は妥当か? 他の方法は考えられなかったか?
- 提示されたデータから、著者の解釈や結論が論理的に導かれているか?
- 研究の限界点として挙げられていることは妥当か? 他に限界はないか?
- この研究結果は、他の状況や文脈にも一般化できるか?
- 自分の研究テーマや問題意識との関連で、どのような意義や限界があるか?
批判的に読むことで、論文の強みと弱みを正確に評価し、自身の研究の位置づけやオリジナリティをより明確にすることができます。また、先行研究の限界点を指摘し、それを乗り越えることを自身の研究の貢献として位置づけることも可能になります。
4.3.3 参考文献リスト作成を見据えた情報管理
研究計画書には、必ず参考文献リストを添付する必要があります。論文を読んでいる段階から、後で参考文献リストを作成することを見据えて、正確な書誌情報を記録しておく習慣をつけましょう。いざリストを作成する段階になって、情報が不足していると大きな手間になります。
記録すべき書誌情報は、前述のフレームワークにも含まれていますが、最低限、以下の項目は正確に控えておきましょう。
- 著者名(全員)
- 発表年
- 論文タイトル
- 掲載雑誌名
- 巻数、号数
- ページ番号(開始ページと終了ページ)
- DOI(Digital Object Identifier)があればそれも記録しておくと便利です
5. 研究計画書における先行研究レビューの書き方
先行研究の調査と論文の読解を経て、いよいよ研究計画書にその内容を反映させる段階です。ここでは、国内MBA合格レベルの研究計画書を作成するために不可欠な、先行研究レビューの具体的な書き方について解説します。単に読んだ論文を要約するのではなく、自身の研究の位置づけを明確にし、その独自性と貢献を効果的にアピールするための記述方法を習得しましょう。
5.1 先行研究の何をどのように記述するか
研究計画書における先行研究レビューは、あなたが研究テーマに関してどれだけ深く理解しているか、そして既存の研究動向を踏まえた上で、どのような問題意識を持っているかを示すための重要なセクションです。単なる論文リストや要約の羅列にならないよう、以下の点を意識して記述しましょう。
まず、レビューの目的を明確にすることが重要です。先行研究レビューは、以下の役割を果たします。
- 研究テーマに関する既存の知見や主要な論点を整理する
- 自身の研究が立脚する理論的背景や分析枠組みを示す
- 先行研究で未解決な点や限界(リサーチギャップ)を特定する
- 自身の研究がそのギャップを埋める、あるいは限界を超えるものであることを示唆する
これらの目的を達成するために、個々の先行研究について、以下の要素を意識して読み解き、レビューに盛り込む必要があります。
要素 | 記述内容のポイント |
---|---|
研究の目的・問い | その研究が何を明らかにしようとしているのか、中心的な問いは何かを簡潔に記述します。 |
対象・データ | どのような対象(企業、産業、個人など)を、どのようなデータを用いて分析しているかを記述します。 |
研究方法・分析手法 | どのような理論的枠組みや分析手法(定量分析、事例研究など)が用いられているかを記述します。 |
主要な結果・発見 | 研究によって得られた最も重要な結論や発見事項を要約します。 |
研究の限界・示唆 | その研究が持つ限界点や、今後の研究への示唆、そして自身の研究との関連性について言及します。特に、自身の研究がこの限界点をどう乗り越えようとしているのかを示すことが重要です。 |
複数の先行研究をレビューする際には、単に一つずつ紹介するのではなく、テーマや論点、アプローチ方法などでグループ化し、体系的に整理して記述することが求められます。例えば、「〇〇に関する研究は、Aの視点とBの視点に大別される。Aの視点では…(引用)。一方、Bの視点では…(引用)。」といった形で、研究動向の全体像を示すように心がけましょう。時系列に沿って研究の変遷を辿る方法も有効です。
さらに重要なのは、先行研究を批判的に検討する視点(クリティカルレビュー)です。先行研究の結果を鵜呑みにするのではなく、その研究の限界や問題点を指摘し、それに対して自身の研究がどのようにアプローチするのかを示すことで、研究の独自性が際立ちます。
5.2 自身の研究のオリジナリティと貢献を示す方法
先行研究レビューは、それ自体が目的ではなく、あなたの研究計画の独自性と学術的・実践的な貢献を説得力をもって示すための土台となります。先行研究を踏まえることで、「車輪の再発明」を避け、研究コミュニティにおける自身の研究の位置づけを明確にすることができます。
オリジナリティと貢献を示すための具体的なステップは以下の通りです。
- 先行研究のギャップ(未解明な点)や限界を明確にする: 先行研究レビューを通じて、「これまでの研究では〇〇については明らかにされているが、△△については十分に検討されていない」「既存の研究は□□という限界がある」といった点を具体的に指摘します。
- 自身の研究がそのギャップを埋める、あるいは限界を超えることを示す: 指摘したギャップや限界に対して、自身の研究がどのようにアプローチし、何を明らかにしようとしているのかを具体的に述べます。これが、あなたの研究のオリジナリティ(新規性)となります。オリジナリティには、以下のような種類が考えられます。
- 問いの新規性: これまで問われてこなかった新しいリサーチクエスチョンを設定する。
- 対象の新規性: これまで研究されてこなかった新しい対象(例: 特定の業界、企業規模、地域、現象)を取り上げる。
- アプローチ・方法論の新規性: 新しい理論的視点や分析手法を導入する。既存の手法を異なる対象に適用する。
- データの新規性: 新しいデータソースを用いる、あるいは独自のデータを収集・分析する。
- 研究の貢献(意義)を具体的に示す: オリジナリティの結果として、あなたの研究がどのような貢献をもたらすのかを明確に記述します。貢献には、主に以下の二つの側面があります。
- 学術的貢献: 特定の理論の発展・修正、新たな知見の提示、研究分野における未解決問題への貢献など。
- 実践的貢献(国内MBAでは特に重要視される): 企業経営やビジネスパーソンにとって有益な示唆、具体的な課題解決への貢献、政策提言など。国内MBAの研究では、この実践的な貢献を具体的に示すことが極めて重要です。
先行研究レビューのセクションの最後で、これらの点を総括し、「以上の先行研究レビューを踏まえ、本研究では〇〇というギャップに着目し、△△という問いを設定する。これにより、□□といった学術的貢献、および◇◇といった実践的貢献が期待される」といった形で、自身の研究の独自性と意義を明確に宣言することが重要です。
5.3 引用ルールと参考文献リスト作成の基本
研究計画書は学術的な文書であり、先行研究からのアイデアや記述を借用する際には、必ず適切な引用を行う必要があります。引用を怠ることは、盗用・剽窃という重大な不正行為とみなされ、入試において致命的な欠陥となります。また、正確な引用と参考文献リストは、あなたの主張の根拠を示し、研究計画書の信頼性を高めるためにも不可欠です。
引用には、主に二つの方法があります。
- 直接引用: 先行研究の文章をそのまま抜き出して使用する場合。引用部分を「」(かぎ括弧)で囲み、出典(著者名、発行年、ページ番号など)を明記します。長文の引用は避け、必要最小限にとどめるのが一般的です。
- 間接引用(言い換え): 先行研究の内容を自分の言葉で要約したり、言い換えたりして記述する場合。この場合も、アイデアの出所を示すために、必ず出典(著者名、発行年など)を明記する必要があります。研究計画書では、間接引用が中心となることが多いでしょう。
本文中での引用表記のスタイル(例: (田中, 2023)、Tanaka (2023)など)や、巻末の参考文献リストの書式は、分野やジャーナル、そして大学院によって指定が異なる場合があります。国内MBAプログラムによっては、特定の引用スタイル(APAスタイル、SISTなど)を指定している場合や、独自の書式ルールを設けている場合があるため、必ず志望校の募集要項や過去の研究計画書の事例などを確認し、指示に従ってください。不明な場合は、入試担当部署に問い合わせることも検討しましょう。
参考文献リストは、本文中で引用したすべての文献情報を、定められた書式に従って正確に記載したリストです。読者が引用元を確認できるようにするために、必要不可欠な要素です。リスト作成にあたっては、以下の点に注意が必要です。
注意点 | 具体的な内容 |
---|---|
網羅性 | 本文中で引用した文献は、すべて 빠짐없이リストに含める必要があります。逆に、本文中で引用していない文献をリストに含めてはいけません。 |
正確性 | 著者名、発行年、論文タイトル、雑誌名(書籍名)、巻号、ページ番号などの情報は、一字一句正確に記載する必要があります。誤りがあると、文献の特定が困難になります。 |
統一性 | リスト全体の書式(著者名の順序、発行年の位置、句読点の使い方など)を、指定されたスタイルに従って統一する必要があります。 |
順序 | 一般的には、著者名のアルファベット順(または五十音順)に並べます。これも指定されたスタイルに従います。 |
参考文献リストの作成は、研究計画書作成の最終段階で行うのではなく、先行研究を読み進める段階から、必要な情報を整理・記録しておくことが効率的です。論文データベース(CiNii, J-STAGEなど)から情報をエクスポートしたり、手書きのノートやExcelなどで管理したりする方法があります。正確な引用と参考文献リストの作成は、研究者としての基本的な作法であり、丁寧に行うことで研究計画書全体の質を高めることにつながります。
6. 国内MBA合格者が実践した先行研究と論文の読み方
国内MBA入試において、研究計画書の質は合否を大きく左右します。そして、その質を担保する上で欠かせないのが、先行研究の調査と学術論文の深い理解です。ここでは、机上の空論ではなく、実際に国内MBAに合格した先輩たちがどのように先行研究を活用し、論文を読み解いて研究計画書を作成したのか、その具体的な実践例と注意点、そして乗り越えるためのヒントをご紹介します。理論だけでなく、合格者のリアルな経験から、あなたの研究計画書作成に役立つ実践的な知恵を学び取りましょう。
6.1 成功事例に学ぶ 先行研究の効果的な活用法
多くの合格者は、やみくもに論文を探すのではなく、戦略的に先行研究を活用していました。彼らが実践した効果的な活用法を見ていきましょう。
6.1.1 研究テーマ絞り込みと先行研究の連動
漠然とした関心から具体的な研究テーマへと絞り込む過程で、先行研究は羅針盤の役割を果たします。
- キーワードの段階的洗練: 最初は広いキーワード(例:「組織変革」「リーダーシップ」)で検索を開始し、ヒットした論文のアブストラクトやキーワードを参考に、徐々により spezifische(特定の)なキーワード(例:「中小企業におけるデジタルトランスフォーメーション推進」「女性管理職のキャリア形成支援」)へと絞り込んでいく方法が有効です。ある合格者は、関心のある経営者の書籍やインタビュー記事からキーワードを抽出し、それを学術データベース検索の起点としました。
- データベースの戦略的使い分け: 全てのデータベースを均等に使うのではなく、目的に応じて使い分ける合格者が多く見られました。例えば、網羅的な検索にはCiNii ArticlesやGoogle Scholar、特定の学術領域に特化した情報を得るためにはJ-STAGEや各大学のリポジトリ、といった具合です。
- 参考文献リストの活用: 質の高い論文や総説(レビュー論文)を見つけたら、その参考文献リストを徹底的に辿ることで、関連性の高い重要な先行研究を効率的に芋づる式に見つけ出すことができます。これは多くの合格者が実践していた王道のアプローチです。
6.1.2 研究の「穴」を見つけるための読み込み
先行研究を読む目的は、単に既存の知見をなぞることではありません。自身の研究の独自性(オリジナリティ)を示すためには、既存研究で何が明らかにされ、何がまだ未解明なのか、その「穴(リサーチギャップ)」を見つけ出す必要があります。
- 批判的読解の実践: 合格者は、論文の主張を鵜呑みにせず、「この研究の限界は何か?」「前提条件は妥当か?」「他の解釈はできないか?」「異なる状況(例:産業、企業規模)にも適用できるか?」といった批判的な問いを立てながら読んでいました。論文の「今後の課題」セクションは、リサーチギャップを見つける上で特に重要な手がかりとなります。
- 複数論文の比較検討: 同じテーマを扱っていても、研究者によってアプローチや結論が異なる場合があります。複数の論文を比較検討し、論点の相違や共通の課題を整理することで、研究領域全体の状況を俯瞰的に理解し、自身の研究が貢献できるポイントを特定しやすくなります。ある合格者は、主要な先行研究の主張、方法論、限界点をまとめた比較表を作成し、自身の研究の位置づけを明確化しました。
論文 | 著者・年 | 主な主張 | 方法論 | 限界点・今後の課題 | 自身の研究との関連 |
---|---|---|---|---|---|
論文A | 著者X (2020) | 〇〇は△△に影響する | 大規模調査 | 特定の業種のみ対象 | 自研究では異なる業種を対象 |
論文B | 著者Y (2021) | 〇〇は□□を通じて△△に影響 | 事例研究 | 一般化可能性に課題 | 自研究で□□の要因を深掘り |
論文C | 著者Z (2022) | △△の要因として××も重要 | 実験 | 実験環境の制約 | 自研究では××の影響も考慮 |
6.1.3 研究計画書への落とし込み方
集めた先行研究は、研究計画書の各項目に有機的に組み込む必要があります。
- 研究背景・問題意識での活用: 先行研究で明らかにされている事実や社会的な課題を引用し、自身の研究テーマの重要性や緊急性を客観的に示します。「〇〇(著者, 年)によれば、近年…という課題が指摘されている」といった形で、自身の問題意識が個人的な思いつきではなく、学術的・社会的な文脈に基づいていることを明確にします。
- 先行研究レビューでの位置づけ: 関連する主要な先行研究を整理・要約し、それぞれの研究が明らかにしたことと限界点を述べます。その上で、「しかし、〇〇については未だ十分に検討されていない」といった形でリサーチギャップを明確にし、自身の研究がそのギャップを埋めるものであることを論理的に示します。
- 研究方法の妥当性: 自身が採用しようとしている研究方法(調査、インタビュー、事例分析など)が、同様のテーマを扱った先行研究でも用いられており、妥当なアプローチであることを示します。あるいは、先行研究の方法論の限界点を指摘し、自身の研究で採用する方法がなぜより適切なのかを説明します。
6.1.4 指導教員候補との接続
先行研究の調査は、入学後に指導を受けたい教員を見つける上でも役立ちます。
- 教員の専門分野の理解: 志望校のウェブサイトで教員のプロフィールや研究業績リストを確認し、特に関心のある分野の教員の論文を重点的に読むことで、その教員の研究テーマやアプローチを深く理解できます。
- 研究計画書の具体化: 教員の論文を読む中で、自身の研究テーマとの接点を見つけ、研究計画書に反映させます。「〇〇先生の研究されている△△の視点を参考に、自身の研究では□□の側面からアプローチしたい」といった形で記述することで、入学後の研究指導に対する具体的なイメージを持っていることをアピールできます。ある合格者は、指導教員候補の論文を引用し、自身の研究がその研究を発展させるものであることを示唆することで、高い評価を得ました。
6.2 論文の読み方で注意すべき点と対策
国内MBA受験生は、仕事や他の学習と並行して研究計画書を作成する必要があり、時間的制約の中で効率的に論文を読み進めることが求められます。合格者たちが直面した課題と、それを乗り越えるための工夫を見ていきましょう。
6.2.1 時間的制約との戦い
限られた時間の中で、膨大な量の論文を読むことは大きな負担です。合格者は以下のような工夫で乗り越えていました。
- メリハリをつけた読み方: 全ての論文を隅から隅まで精読するのではなく、目的意識を持って読む部分と読み飛ばす部分を明確に区別していました。まずアブストラクトと結論を読んで論文の全体像と要点を掴み、自身の研究計画書作成に直接関係する部分(序論、先行研究レビュー、結論、今後の課題など)を重点的に読み、詳細な分析手法などは必要に応じて確認する、といったメリハリが重要です。
- スキマ時間の活用: 通勤時間や昼休みなどのスキマ時間を活用して、アブストラクトや短い論文を読む習慣をつけていた合格者もいます。スマートフォンやタブレットで論文PDFを読めるようにしておく、論文の要約を音声で聞いてインプットするなど、各自のライフスタイルに合わせた工夫が見られました。
- 読む目的の明確化: 「この論文から何を知りたいのか?」を常に意識し、漫然と読むのではなく、必要な情報をピンポイントで探し出すように心がけていました。「研究背景の根拠となるデータを探す」「リサーチクエスチョン設定のヒントを得る」「類似研究の方法論を確認する」など、具体的な目的を持って読むことで、読解のスピードと効率が格段に向上します。
6.2.2 英語論文への対応
研究テーマによっては、英語論文を読む必要が出てくることもあります。英語に苦手意識がある受験生も、以下のような対策で対応していました。
- 翻訳ツールの活用: DeepLやGoogle翻訳などの機械翻訳ツールを補助的に活用し、まずは論文の概要を把握する。ただし、専門用語や微妙なニュアンスは誤訳される可能性もあるため、最終的には原文を確認することが重要です。特にアブストラクトや結論部分の翻訳精度は比較的高いため、最初に活用する価値は高いでしょう。
- 読む順番の工夫: 日本語論文と同様に、アブストラクト、結論、図表(Figures/Tables)とそのキャプションを先に確認し、論文の骨子を理解してから本文を読む、という順番が効率的です。
- 専門用語リストの作成: 自身の研究分野で頻出する英単語や専門用語をリスト化し、効率的に学習する。関連分野の日本語論文で使われている用語と対応させて覚えるのも有効です。
6.2.3 モチベーション維持の秘訣
先行研究調査は地道な作業であり、モチベーションを維持することが難しい局面もあります。合格者は以下のような方法で乗り越えていました。
- 仲間との情報交換: 同じようにMBA受験を目指す仲間や、予備校などのコミュニティで情報交換を行ったり、互いに励まし合ったりすることが、モチベーション維持に繋がったという声が多く聞かれます。読んだ論文について議論することで、新たな視点が得られることもあります。
- 小さな目標設定と達成感: 「今週中に主要論文を3本読む」「今日はアブストラクトを5本読む」など、具体的で達成可能な小さな目標を設定し、クリアしていくことで達成感を得ることが、継続の力になります。
- 研究の意義の再確認: なぜ自分がこの研究をしたいのか、研究を通じて何を明らかにしたいのか、その研究が社会や実務にどう貢献できるのか、といった原点に立ち返ることで、困難な作業を乗り越える意欲が湧いてきます。
6.2.4 批判的視点の欠如への対策
論文の内容を無批判に受け入れてしまうと、自身の研究のオリジナリティを示すことが難しくなります。
- 疑問を持つ習慣: 論文を読む際に、「本当にそう言えるのか?」「他の可能性はないか?」「この研究の限界点は何か?」といった疑問点を常に意識的にメモする習慣をつけます。
- 多角的な情報収集: 一つの論文だけでなく、関連する複数の論文や、異なる立場からの意見(書籍、レビュー記事など)も参照することで、多角的な視点からテーマを捉え、より客観的で批判的な評価が可能になります。
- 議論を通じた視点の獲得: 受験仲間や、可能であれば大学の教員などに論文の内容や自身の解釈について話してみることで、自分では気づかなかった論点や問題点が見えてくることがあります。
6.2.5 情報整理の失敗談と教訓
読んだ論文の情報を適切に管理・整理できていないと、後で研究計画書に活かす際に苦労します。合格者の失敗談から学ぶべき教訓は多いです。
- 失敗談「どこに何が書いてあったか忘れる」: 多くの論文を読むうちに、どの論文に重要な情報が載っていたか、引用したい箇所がどこだったか分からなくなるケース。
- 教訓 → 読書ノートの標準化: 手書きやWord/Excelなどで管理する場合でも、論文ごとに「書誌情報」「要約」「重要な引用箇所(ページ数も)」「批判点・疑問点」「自身の研究との関連」などを記録するフォーマットを決めておくことが有効です。
- 失敗談「引用元が不明確になる」: メモを取る際に引用元情報を正確に記録しておらず、後で参考文献リストを作成する際に困るケース。
- 教訓 → メモと同時に引用情報を記録: 論文から情報を抜き出す際には、必ず著者名、発行年、ページ数などの引用元情報をセットで記録する癖をつけます。文献管理ツールを使えば、引用情報の自動生成も可能です。
これらの合格者の実践例や注意点は、あなたの国内MBA受験における先行研究調査と論文読解を、より効果的かつ効率的に進めるための貴重なヒントとなるはずです。ぜひ参考にし、質の高い研究計画書作成に繋げてください。
7. まとめ
国内MBA合格を目指す上で、研究計画書の質は極めて重要です。その質を担保し、自身の研究の独自性と貢献を明確に示すためには、先行研究の調査と理解が不可欠となります。本記事で解説したCiNii ArticlesやJ-STAGEなどのデータベースを活用した効率的な論文の探し方、アブストラクトや結論から読み進める論文読解術を実践することで、説得力のある研究計画書を作成できます。先行研究を深く理解し活用することが、合格への道を切り拓く鍵となるでしょう。